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始祖たちの疚しさ |
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ある学問、治療法、概念といったもろもろのイメージはどこで規定され、われわれに伝わるのか。多くの場合、それは創始者に帰せられることとなる。精神分析においても事情は異ならない。
精神分析の創始者フロイトは、人間的に非常に魅力的であるとはいえ、人格者と呼べるような人間ではとてもなかった。たとえばその証拠を一つ挙げれば、多くの協力者と離反し、弟子を破門したということが挙げられる。もちろん、天才と人格者は多くの場合一致しない。彼の性格と研究の内容は区別されるべきだろうが、例えば若き日のフロイトの主張。「コカインは万病に効く薬となる」などと軽率にも発言してしまう、野心と名誉欲は、彼の研究者としての信頼を損なうエピソードだろう。
さらにフロイトは人間の精神をあまりに性的な事柄に結び付けすぎたと思われる。夢に出たナイフでもペンでも尻尾でも彼にとっては男根の象徴でった。フロイトはほとんどあらゆる人間の精神、意識を性的に捕らえようと欲した。フロイトを変態よばわりする悪口は当時から、そして彼の理論が古典(つまり既にそのままでは使用に耐えない)となった現在も言われることである。
うさんくささの原因といえばフロイトと並ぶ巨頭の一人、ユングを忘れてはいけない。(彼は分析心理学の創始者ではあるが、当サイトでは便宜的にユングも精神分析家の仲間として扱っている。2つを分けようとすればあまりに複雑になってしまうため容赦してもらいたい)
私は前述の彼のプロフィールにおいて、若きユングが女性患者と性的関係を持った理由として、非常にユングに好意的な立場の意見を採用し患者に深い同情と献身的な態度で望んだため、女性患者の心的世界に巻き込まれた云々と書いた。しかしそのような理由付けはお笑い種だろう。カウンセラーが患者と恋愛的肉体的関係を結ぶことで、患者の精神に回復傾向がみられるという例があるということは私も否定しはしない。ただし、自分の患者であり研究対象でもある相手とたびたび性的関係を持つ医者や学者を信頼しろと言われても、無理な話だと思うのである。彼を慕い誘惑した降霊術師の従妹ヘリー。ユングは本当に彼女から一方的に誘惑され恐れを抱いたナイーブな青年だったのだろうか、そういう下司の勘繰りもしてみたくなる。
そして何よりユングが精神分析(分析心理)のイメージに与えた大きな影響というのはオカルトなるものへの親近性だろう。
晩年の彼は神秘主義やオカルトといわれる領域に触れる、というよりは積極的に発言し、錬金術やUFOに対してまで論述している。そのため科学者の後継を得ることなく、ユングについて科学的な研究が行われることはほとんどなく、その分オカルト的なものにひきずられていった。
精神分析が学問の皮をかぶっただけの、実質は悪魔払いと大差の無いものというイメージを持ち、また精神分析家がホラー映画において重要な立場、道具立てとして利用されるようになったのもユングの功績といって差し支えがなかろうと考えられる。 |
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